思いと現実

訪問
 前回お話の通り2010年9月21日の午後、設計事務所を訪ねました。大阪の玉造は私には身近の場所です。アバウトながら私なりの思いを伝え、これを起点に可否の感触をつかむことがこの日の課題です。
 構造体は木造です。軽量鉄骨などの選択肢もありました狭い土地ですから検討を加えるとこの形が良いのではないかとの結論に達しました。
 住宅展示場に出向きました。ここで一番感動したのはエレベーターでした。価格的にも妥当なもので真剣に導入を考えましたが、ハッと気がついたのは住宅展示場の余裕のあるスペースではなく狭小住宅です・・・・これ以上は説明不用です。
 しかし、これからの体力を考えると、3階はそれなりの対策と覚悟が必要かもしれません。その時には1階の車庫部分を居住空間に改築することも視野に入れなければなりません。

木造3階建て
 木造3階建てと2階建との違いは、単に階数が一つ増えるだけではありません。日当たりや眺望も良く多くの利点がありますが、現在の日本の都市部(準防火地域)における木造3階建ての住宅は、法規上、木造2階建てとは異なる特別の扱いを受けています。そこには設計や建築工事に高い専門技術が必要です。
 法規的には、2階建てに通常加わる建築基準法上の規制にさらに、大きな規制が加わります。これらはもちろん経費の増加を意味します。

 何が加わるのかというと、外壁だけでなく、内部の間仕切り壁にも耐力壁が必要となり、水平力・せん断力・引き抜きなど専門的な構造計算が必要です。
 ここに3階建て住宅に精通した専門家が登場することになり、単に資格があるから大丈夫・・という条件を越えたものになります。

 ここに大手に住宅メーカーが参入しにくい性質があり、規格品を大量に販売する姿勢と柔軟性を示すことが相反することから来ていることでもあります。とにかく同じわがままな顧客を相手にするなら単価の高い方が良い客であり、対応の面倒臭さを考えれば、手を出したくないというのが本音かもしれません。
 ここに庶民の夢が形にならない現状が浮かびます。年金で生活する家という条件が、有り余る資金をふんだんに投入するものでないという宣言になっているのですから、土地が狭い、だから立体的にスペースを作りたい・・・そこに厳しい法的根拠が当てはめられたちまち建築単価に繁栄されるという現実も相反する克服の課題です。

屋上の扱い
 木造3階の屋上にルーフテラスを作るなどもってのほかだ!といわれました。これは住宅展示場を持つ木造3階建てを売り物にしているメーカーの設計者を含めてです。
 理由は実に単純です。標準規格に手を加えたくない、一つでも例外を作ると何かと面倒であるという事情です。
 さらに1988年に建築基準法が改正・施行されるまでは、準防火地域において木造3階建ての建築は禁止されていました。主要都市の市街地は殆どが準防火または防火地域ですから、木造3階建ては郊外の防火無指定地域以外は事実上締め出されていました。そのため1988年の解禁により都市部で木造3階建てブームが起こったようです。

 アネハさんの構造計算書偽造事件の後遺症のように2007年に建築基準法の改正が行なわれ、確認申請手続きが厳格化しました。
 業界も大きな影響を受けましたが、構造計算を伴う木造3階建てはとくに深刻でした。
 翌年の実績も大きく下降線をたどりましたが、片方では確認申請書図面と実地工事図面別という本音と建前の二元主義が改められたようです。

 木造3階建ての解禁にともない、木造軸組み工法住宅についての構造計算方法のスタンダード化が進みました。
 このあたりはかなり専門的であり、勉強すると3階建てのみ当てはめられる計算があるなどまだまだ改正の余地があるようです。ただ強度の問題は最重要な条件ですが、数値の厳格化で設計の自由度が損なわれることは歓迎できません。
 いずれにしてもこの恩恵を受けたり制限を受けたりの建築基準法ですが、色々教わりながらひとつづつ課題をクリアして行きました。

 2階に風呂を作るな・・とか木造の屋上利用は止めとけ!!!など親切なアバイスを受けましたがその一つ一つを事例をあげて解決してくれたのは今回出会った田原建築設計事務所でした。できない理由を並べるより少しの知恵で思いを可能にする力こそ私が求めているものです。
 
 不勉強ながら感じることは法的根拠によって自由度が損なわれる基準の範囲で、ささやかな夢を実現させるのがプロのなす業であると信じます。
 兵庫県の場合、木造住宅着工数の8パーセントが3階建て以上ですから圧倒的に少数です。大阪は26パーセントでその差は歴然ですが、今後もっと興味深く発展するのではないかと感じます。
 ただ大阪を歩いて感じたことは阪神大震災後の建設であっても結構不安な3階建も現実にはあるようです。

 あれやこれやと暇に任せて図面とにらめっこする毎日ですが、もしこれ位感心をもって以前の家を建てたのなら手放すときはもっと感慨があったと思います。
 正に縁そのものの出会いから生まれた時間ですが、任せて安心そして信頼の出来る確信が得られためぐり合いに感謝しています。